プロジェクトストーリー 挑戦するDNA~箱崎編

開発
冬暖かく、夏に冷たい河川熱に着目

  • 隅田川の熱をエネルギー源に

    1989年4月、東京都箱崎に日本で初めて河川熱を利用した地域冷暖房施設が誕生した。
    80年代の好調な経済状況を背景に多くの市街地整備・再開発が実施され、箱崎地区においてもオフィスや住宅へ再開発する構想が浮上。同時に、隅田川の堤防を、人々が水辺に親しめるスーパー堤防につくりかえる計画が検討されていた。
    再開発により急増するエネルギー需要。開発地域一帯に効率よくエネルギーを供給するために注目されたのが、目の前を流れる隅田川だった。
    河川の水の温度は、外気温度と比べ、夏は冷たく、冬は暖かいため、河川水をヒートポンプの熱源とすれば、高い効率を得ることができる。この隅田川の豊富な河川水を熱源水として活用できないだろうかと考えた。しかし、当時はまだ河川熱という未利用エネルギーを大規模に有効活用しようなどという発想はなかった。日本初となるプロジェクトは難航が予想され、当時の地域熱供給事業者であった東京電力と関係者は、空調システムに河川水を利用する技術面と公共物である一級河川の利用許可を得る難しさなどに挑戦し続けた。その挑戦するDNAと技術は、現在も東京都市サービスに受け継がれている。

  • 海水を含む隅田川河口に近いため、貝類の侵入対策も求められる

    オートストレーナ

  • 自然環境との共存

    対象となるエリアは河口に近く、河川水とはいえ塩分が含まれ、浮遊物や海洋生成物などが流れ込むことが課題となった。そこで、隅田川の水を使った水質実験施設をつくり、1年間に亘る検証を行なった結果、河川水が流れる配管の内側はガラスでライニングし、ヒートポンプの熱交換器のチューブには腐食に強いチタン製を採用することとなった。
    浮遊物などの流入防止には、取水口に柵を設置することで大きな流入物を取り除き、次に直径2mmの穴が開いたオートストレーナと呼ばれるフィルターを通す。さらにヒートポンプ手前にも配管内で成長した貝の幼生等を除去する直径6mmの穴が開いたストレーナを設置し、三重の対策をとることが決まった。それでも河川水に生息する微生物などの影響で、熱交換を行なうチューブ内にはどうしても汚れが付着するため、汚れを取り除くブラシを循環させて汚れを溜めないよう工夫した。
    また、箱崎地区は河口に近いことから潮の干満の影響を受けやすく、東京湾の満潮時には河口の水位が高くなり、河川は下流から上流に向かって逆流する。常に上流側から取水し、下流側に放流すると、満潮時には放流した河川水をそのまま取水することになり、河川の熱を有効に利用することができない。そこで、取水口を挟んで上流側と下流側2つの放流口を設け、潮の干満に合わせて放流口を切り替えることで対応している。
    環境に与える影響を最小限に留めることも課題の一つで、取水量だけでなく、取水と放流の温度差を一定範囲内に収めることなど、河川管理者との間で厳格な取り決めが行なわれた。こうして、計画開始から数年を経て「箱崎地区熱供給センター」が完成。オフィスや高層住宅など2軒、延床面積約28万m2にエネルギー供給を開始した。

進化
すべてを見直し河川熱活用の有効性を追求

  • 目指すは日本トップクラスの省エネ性

    供給開始からおよそ20年。日々、メンテナンスやオーバーホールを繰り返しながらヒートポンプの運用管理をしてきたが、軽微な不調や機器の劣化が顕在化し始めた。これを受けて、2009年より大規模リニューアルに着手。このとき、河川水をより有効に使うためのデータ分析や近年の熱需要量に合わせて熱源設備容量を適正化することで、熱供給設備の更なる高効率化が行なわれた。
    「当初の計画では現状より多くの利用を想定していたため、実際の供給量に対して機器容量が大き過ぎる状態にありました。過大な設備の導入はコスト増になるので、多少の伸び代を残して容量を縮小することを決めました。また、当社が所有・運営する熱供給プラントにおける一次エネルギー換算COPは全地域合計で1.13(2015年度実績)ですが、改修前の箱崎地区は1を切る数字でした。河川水という未利用エネルギーの有効性を示すためにも、20%の効率アップを目指しました」(技術・開発部 設備建設グループリーダー(工事計画担当)以下、設備建設GL)

  • 技術・開発部 設備建設グループリーダー(工事計画担当)

  • エリアサービス事業部 東京第2支店 箱崎地区熱供給センター所長

  • リニューアル工事の第一優先事項は「安定供給」

    熱供給事業者として、常に安定供給を維持することが使命であり、リニューアル工事では"熱の供給を維持しながらの施工"が課題のひとつであった。 3台ある熱源機は、常時3台稼働を維持するため、1台分のスペースを作り、1台新設しては1台撤去という作業を繰り返した。
    「とにかく供給がストップすることがないよう、技術者と実際に運用にあたるスタッフとで手順書を確認し、部分的に事前に試したりしながら、実際の切り替え前に何度実施したか分からなくなるくらいにリハーサルを繰り返しました」(設備建設GL)
    「機器類を切り替えた後すぐには安定しないことがあるので、プラントの運転にはかなり神経を使いましたが、過去の運用データやノウハウが役立ち、大きなトラブルがなかったのが何よりです」(エリアサービス事業部東京第2支店箱崎地区熱供給センター所長 以下、箱崎DHC所長)
    また、堤防の下に埋まっている取水口の水中ポンプも、3台のうち2台を新しいものに取り替えた。その際には、堤防に大型車両が入れないため、水中ポンプは隅田川を船で運び、川に浮かべた台船から搬入を行うという、他では見られない施工風景が展開された。

  • 高効率化を実現、これからも自然に挑み続ける

    計画と工事を合わせ、約5年をかけたリニューアルが完了したのは2014年12月。リニューアル後のセンタープラントの一次エネルギー換算COPは、1.25となり、リニューアル前と比べ約30%向上を実現した。しかし、「河川という自然を相手にしている以上、課題はなくならない」(設備建設GL)。 本来ストレーナを通らないはずの貝類だが、その流入はいまだに悩みの種だ。ストレーナを通り抜けた稚貝が配管系統内で成長するものも多く、定期的な除去作業は欠かせない。さらに今夏は、河川の浮遊物の流入を防止するためのストレーナが全台同時に詰まるというトラブルが発生。
    「渇水の後の台風で一気に河川が増水したために、浮遊物が増えたのだと思います。バックアップ用の冷却塔があるため、そちらに切り替えれば問題はないのですが、環境性に配慮し、河川水を優先的に利用した事が逆にトラブルにつながってしまいました。来年以降は河川の状況を見ながら切り替えのタイミングを計っていこうと思います。最新鋭の機器であっても、うまく運用するには隅田川の変化への対応が欠かせません」(箱崎DHC所長)
    大規模リニューアルを終え、日本初の河川熱を利用した地域冷暖房施設は新たな歴史を作り始めた。しかし、「ストレーナの目は小さすぎれば詰まりやすくなり、どのくらいが最適なのか、いまだに試行錯誤している状況」(箱崎DHC所長)であり、自然と協調し、エネルギーとして活用していくための挑戦に終わりはない。その歩みは、同様の施設の先駆けとして、さまざまな示唆を与えてくれることだろう。

  • ヒートポンプ

プロジェクト概要

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